いま考えるニッポンの電力問題
いま考えるニッポンの電力問題
斉藤永幸:著
3.11後の電力問題は東京のみならず、全国的な問題となったわけですが。
そういった電力問題についての解説本。
内容的には、電力会社は「原発は安いよ。推進しよう」と言っていたのは建前で、政府への提出書類じゃ「推進広告に使ってる安値と違う高値」のコストが載ってる事実を暴露してたりと、原発推進の裏事情がざっくりと載ってたりする。
原発の反動で、自然エネルギーなどへと関心が向かっているが、不安定な自然エネルギーに対応するために電力のきめ細かな管理を可能とするスマートグリッドへと移行すると、リアルタイムでの電力消費のデーターという個人情報と、個別に電力カットができるという強大な力を電力会社に与える事となり、今以上に電力会社が強大な影響力――権力を持つ可能性を指摘。
スマートグリッドになると便利になるし、環境にも良いという程度の漠然とした認識でしたが、そのスマートグリッドを握った企業がどういう力を持つことになるのかという指摘は珍しく、また確かにと納得。
「電力値上げするぞ。嫌なら停電だ!」の脅し文句を、電力会社がもっと気軽に使えるようになるわけですね。
食の歴史と日本人
食の歴史と日本人
川島博之:著
タイトル通り、食の面から日本人を見つめた教養本。
といっても、食の風俗史とかではなく、食糧需給の面から見ている。
まず、島国は人口密度が高い傾向にある。
次に、島国は単収が高く、同じ面積で養う人口が多い傾向にある。
その中で日本は、特異的にその傾向が強い。
人口増加の結果、日本の土地で養える人口の限界に到達し、人口の飽和状態を迎えた江戸期。
同じ島国のイギリスが移民という形で人口圧力を抑制したのに対して、日本ではほとんど移民が行われず国内のリソースを限界まで効率的に利用する形で対応したことなどが考えられる。
いわゆる『もったいない』思想。
今の日本人は、江戸期の影響が大きいんだなと思わされた。
日本林業はよみがえる
日本林業はよみがえる
梶山恵司:著
日本の林業のダメなポイントを並べつつ、海外の林業との比較から始まり。
日本の林業の再生の方向性を語る本。
日本がやっているような、五十年ほどの短い周期での植林と皆伐はコストがかかるうえに、得られる木材も少なく質が低い。
間伐を繰り返しながら、百年ほど育ててながらの植林のほうが得られる木材の量も質もよい上に、森も多様性がまして良いとのこと。
また、日本の林業機械は建設重機をベースに改造した程度の使い勝手が悪い物で、しかも森に余計なダメージを与えるのに対して、海外は最初から林業用として設計された林業機械を使っているとか。
重くてかさばる上に単価が安い丸太という商品は、海外からわざわざ輸入するより国内で調達して加工するほうが競争力があるはずなのに、わざわざ海外から輸入したりするのは行政が、ごにょごにょとか。
うまくやれば、日本の林業は再生できて明るいらしいけど……
建築する動物たち
建築する動物たち
マイク・ハンセル:著
長野敬+赤松眞紀:訳
ハチやアリなどの社会性昆虫が構築する大規模な巣や、ビーバーや鳥。ネズミなどの小動物が作る巣や巣穴。
遺伝子の直接的発現である生物の肉体そのものでなく、ドーキンスの言うところである『延長された表現型』である生物の個体の外側に発現する構築物を主題にした本。
社会性昆虫の巣やクモの網などの構築物が、単純なルールの組み合わせによって作られていることを解説し、道具を使用する生物たちの話に移り、最後には動物と芸術などの関係性に触れて終わる。
膨大な動物の種の数の割には、この手の構築物を作る種は少なく限られており、道具の作成と使用に至っては壊滅的だとは意外。
道具の作成と使用は、生物にとって実はそれほど有益ではない。道具を便利に使いこなし、また作るのに適した手と、道具の効率的使用と改良と発明ができる脳を持つ人間であ
って初めて道具に依存するほど道具が効率的になっていて、人間が例外という結論は思わず納得。
印象深いネタは、単細胞生物であるアメーバーが砂粒を集めて選り分けてカタツムリのごとく背負って歩く殻を作るとか、道具を使うことが割りと知られているチンパンジーですら場当たり的に使用し、かつ状況を理解して使用しているか疑問が残る実験の報告。
パイプに落とし穴をつけて、褒美である餌を片方からしか取れない状態で中に用意。餌をとるための棒を渡して、どう取るかと観察したら穴の存在が理解できないのかほとんどのチンパンジーが餌を取れずじまい。
しかも、取れるようになったチンパンジーも穴を天井に移して無意味にしても、今までと同じやり方を踏襲して変えず、穴の意味や存在を理解している様子を見せない。
こういうのを読むと、人間のような物質文明を花開かせるような知的生命が進化するのはとても稀有なことなのではないかと思ってしまう。
冬眠の謎を解く
冬眠の謎を解く
近藤宣昭:著
元は臓器移植のために、臓器の保存方法の研究をしていたら冬眠研究へと至ったと。
細胞レベルで、体温の低下がもたらす危険と、それに対処する冬眠メカニズムの解説。それらの解明に至る研究過程など、なかなかに知的好奇心を満たしてくれる。
冬眠を左右する冬眠タンパク質の増加でなく、減少が冬眠のトリガーになるとかも興味深い。
目新しかったのは、冬眠動物が長寿なのは『冬眠中は寿命のカウントダウンが停止するから』ではないこと。
実際に冬眠するかどうかに関係なく、冬眠に対する体の準備の出来具合が寿命を左右するらしい。
そのため、同種でも個体差が大きく、冬眠の質が大きな要素らしい。
冬眠動物で起きている長寿のメカニズムが人間に応用できるといいのだけど。